コラム

2014.12.21

第11回 血統書付き

株式会社東京木川鋳造所 小澤剛典

我が家には今、5匹の猫がいる。4年前、知人から「血統書付きの猫がいるが引き取って大事に育ててほしい。」との依頼があった。家族と相談し喜んで貰い受けることにした。

東急沿線のある駅前で待ち合わせをした。

 東急沿線のある駅前で待ち合わせをした。

猫かごに入れて持ってきた人は、35才ぐらいの画家タイプで黒のコートを着た個性的な女性だった。
ベージュ色の猫で、名はテンテンと名付けたと言った。
12月3日の生まれで1歳との事である。マンション暮らしで猫を何匹も飼っているが、別に生活している父親が病気のため、一緒に住まなくてはならなくなり、猫嫌いの父親のためにすべて手放すという。最後の1匹がテンテンだと言うのだ。ひと通りの説明を聞いた。不安そうにかごの中でじっとしているその猫は、南方系のベンガル猫だった。
自宅に戻ると子供達は代わる代わる抱いて、「毛艶がすごくつるつるしていていいね、気持ち良い。」と言った。短毛でくすんだ茶色の紋点が浮き出たように身体中にあり、足は横縞になっている。眉間の所から鼻の両脇を通り頬のヒゲのある所まで縦の黒の太い筋がある。顔が小さめで豹顔、精悍な顔である。
ところがケンカに弱い。すずなと言う名の猫は特によくいじめる。
いじめられても逃げずに腹を出して寝転んでバンザイの姿である。
血統書付きなのに実に情けない。よく見ると後ろ足が斜めになっている。
元の飼い主の女性が猫をケージの中に入れたまま外に出さなかったから、中でグルグル廻る動きしかしていなかったためだ。前に出る動作より斜めに出る動作のほうが都合良い様に足はX脚になっていた。高い所へ飛び乗るのも下手である。女性との約束で半年ぐらいは、近況をメールで送ってくださいと言われていたので、写メを送っていた。どの角度から撮っても絵になるので不都合はなかった。
1年余り経ったある日、彼女からメールが届いた。文面は「介護していた父が亡くなった。ついに私は一人ぼっちになってしまった。猫たちはいない。ほんとの一人ぼっちになった。ついては私を引き取ってくれる人を紹介してほしい」とあった。彼女も血統書付きなのだろうか。
その後、テンテンは他の猫と同じ様に走り廻るようになった。一緒に遊んでいる。足は速くなり、高い所へも飛び乗れるようになった。それでも俊敏とは言い難い。椅子の座布団に飛び乗り損ねて爪を立てたまま、それと一緒に落ちたりしている。血統書付きのベンガルの豹は、いまだ普通の猫になりきれていないのだ。
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